東京児童協会が運営する東京都墨田区にある「すみだ中和こころ保育園」は、地域との関わりに加え、「和」をコンセプトにした保育園。また、園のテーマである「和」にちなんだ体験企画も実施されています。今回は、地域の華道の先生を招いて子どもたちが実際に華道を行う体験教室開催しました。その様子をレポートします。
「和」を重んじた地域に愛される保育園を目指す
地域とのつながりを大切にする同園では、数年前から地元の「十字蕾肖 草月流いけばな教室」を運営する十字蕾肖先生を指南役に招き、子どもたちに本格的な華道を教えてもらう体験教室を行っています。「本物にふれる」ことに重きを置くと同時に、地域を大切にする同園にピッタリの企画です。
スタートした当初は、先生がお花を生けるのを子どもたちが見学するスタイルだったそう。それがある時、子どもたちから「花を生けてみたい!」とリクエストがあり、子どもたち自身が花を生ける現在のスタイルになりました。
華道体験教室スタート!
十字先生が今回生ける花に選んだのは、ユキヤナギ、菊など。春にピッタリの花たちです。また、桃の節句が近かったこともあり、桃の花も取り入れられました。季節の花やイベントを知るきっかけにもなりますね。
花の茎を切って花が水を吸いやすいようにしたり、正面に花が向くように位置を調整しながら剣山に生けたりなど、丁寧に一つひとつ説明してくれます。
質問コーナーでは、「菊の花がたんぽぽに似ているのはどうして?」「桃の花が梅の花に似ているのはなぜ?」など、これまで花に親しんできたからこそ、植物に対する素朴な疑問を十字先生に投げかけます。種類は違っても、同じ仲間だと十字先生からの回答に納得する子どもたち。
次に、それぞれの花の「匂い」も体感します。「いっぱいいい匂いがする!」「洗剤みたいな匂いがする!」と子どもたち。「洗剤がきっと花の匂いを真似たんだね」と十字先生。花によって匂いが違うことを五感で感じる子どもたち。
子どもたちからふと沸いて出る感性豊かな質問の数々は、保育士も感心したりさまざま気付きを得たすることが多いそう。こうした子どもたちの何気ないつぶやきが、その道のプロから確かな回答を得ることができるのも「ホンモノ」を体験する機会があるからこそ。
近くで花を間近でじっくり見たり、花それぞれの匂いを感じたりなど、植物を愛でる機会もこのイベントならでは。
座学で華道を学んだあとは、子どもたち自身が花を生ける出番。俄然気合が入ります! お気に入りの花を手にして、今から創作する作品をイメージします。
生ける花は、じつは事前に地元の花屋さんに足を運び、子どもたち自身が選んだ花。だからこそより興味関心を深く持ったり、地域とのつながりを感じる良い機会にもなります。
十字先生のサポートを受けながら、一人ひとりが慣れた手付きで生け、真剣な表情でステキな作品作りに没頭します。
完成した花たちは、最後に子どもたちそれぞれがタイトルを付け、保護者の方々にも見てもらえるように玄関先に飾ります。
花を生けたあとはもちろん子どもたちがお世話を担当。花が長生きするよう、ときには切って再度生けることもあります。
そのときも、十字先生の言葉を思い出し、花の向きや花瓶と花とのバランスにもこだわるなど、プロの教えをしっかり習得していることを実感。
華道教室は、5歳児クラスが行いましたが、4歳児クラスの子どもたちは、同じ空間で写生を行います。
十字先生が生けた花をじっくり見ながらそれぞれが感性豊かな絵を描きます。こうした試みも実は子どもたちからのリクエストだったそう。
写生をスタートした当初は、シンプルな棒を描いていた園児が、花を生ける体験をしたことで、絵の表現にもより時間をかけてこだわるなどの変化も見られたそう。
そればかりか、自ら進んで花を生けて園に持ってきたり、自分1人で花屋に行って購入した花を生けてママにプレゼントする園児も! さらに、小さな園児たちもお兄さん、お姉さんに続けと、テラスで摘んだ花を生けたりと、華道教室は子どもたちにとってさまざまな好影響をもたらしています。
季節によって旬の花があること、匂いが違うこと、いろんな色があること、花屋さんの存在を知ること、集中してなにかに取り組むことなど、たくさんの学びがある華道教室。
華道教室は、こうして子どもたちの興味関心を広げると同時に、また子どもの感性を豊かにしてくれる貴重な体験になっています。
小学生になるための準備も大切
今回華道教室を行った5歳児たちは、もうすぐ小学生になります。集団生活をするうえでのルールを楽しく学べる機会は、子どもにとって、とても大切なこと。自由な環境しか体験していなければ、いざ小学生になったときに集団生活での新しい環境を苦痛に感じてしまうことがあるかもしれません。
ですが、華道教室で実践しているように、じっと座って話を聞くことを習得していれば、初めての小学校生活に違和感を感じることも少ないでしょう。
つまり、子どもの未来を考えるうえで、小学生になるための準備の必要性を園側が認識し、日常生活で実践できているかは、とても重要なポイントになります。華道教室は、こうした役割も担っています。
実際、華道教室スタート時は、落ち着いて座ることができなかったり、集中力が続かなかったりすることもままありました。
5歳児にとっては、話さずにじっと正座をして人の話を聞くことは至難の業。ですが、月に1回華道教室をしていく中で、徐々に集中して取り組めるようになり、子どもたちは立派に成長してくれています。きっとこの体験は小学生になる5歳児にとって貴重な体験になるに違いありません。
ちなみに同園を運営する東京児童協会では、こうした小学生に向けたカリキュラム「ワンルーフゼミ」を積極的に取り入れています。
幼少期の体験は子どもの心を豊かにする
同園の保育士・園長先生は、子どもたちにとって有益な体験をどうしたら園での日常生活内で実現できるか、子どもたちの未来につながる体験をさせてあげられるかを常に考えたうえで保育に活かしています。
「子どもたちに楽しんでもらうために、ダンボールハウスを作ってきたりなど、保育士自らが、子どもたちのことを考えて率先して行動してくれるのはありがたいですね。なにより保育士自身が保育そのものを楽しんでくれているので、それを見ている子どもたちにとっても良い影響だと感じています。」と話してくれた川上園長先生。
それと同時に、保育が楽しすぎるのか、保育士が園から帰宅してくれなくて困っていると苦笑いの園長先生。保育士にとってそれだけ居心地が良く、良い環境だということですね。じつはこれも良い園である秘訣だと園長先生は言います。
「保育士から保育に関する相談を受けたり、園長先生にかけあったりするのが私の役割だと思っていて、またそれを最終決定するのが園長先生だと認識しています。なので、日々保育士同士が話しやすい環境作りを大切にしています」と主任・佐藤先生。
まだつぼみの多い花たちが、日々成長してきれいな花を咲かせてくれるように、さまざまな幼少期の体験は子どもの心の成長に大きく影響すると信じて、すみだこころ中和保育園職員は日々保育を行っています。