「東京児童協会」は、東京都内に22の保育園を運営。そこで大切にされているのが、子どもたちにとってよりよい環境作りを目指した「大きなおうち」という理念です。先日開催された主任研修時に同法人理事長・菊地政幸理事長(以下、菊地理事長)から語られた「おうち」誕生の背景や、EDO日本橋保育園石川美智子園長による「大きなおうち」の環境づくりの工夫なども併せて紹介します
「大きなおうち」の誕生まで
東京児童協会は、変革する保育園業界において、90年以上の歴史を持つ、都内に22の保育園を運営。東京都江戸川区船堀から保育園事業をスタートしました。
当時はいわゆる「一斉保育」が主流。ですが、菊地理事長は自身が園長として過ごす中で、決められたカリキュラムの中での保育に疑問を持ち始めます。そんなときに研修で訪れた園で、当時では珍しい保育環境を知り衝撃を受けることに。
そこでは、遊び部屋とは別に食事部屋が設けられた北欧スタイルの保育環境が取り入れられていました。大きく影響を受けた菊地理事長は、実際にスウェーデンやノルウェーに足を運び、現地の保育環境を学んだり、国内でもさまざまな保育園を視察したりと、北欧スタイルの保育に関する情報を収集。
北欧スタイルにヒントを得て、あらためて子どもたちがより伸び伸びと遊べる環境が作れるか?を追求。スタッフとじっくり検討しながら、ときには反対にあいながらも、食事と遊びの空間を別々に設ける現在の保育環境が始動しました。2022年現在は、同協会が運営するすべての園で食と遊びの空間が分けられた環境で保育が行われています。
調理スペースを園児がいつでも見えるように、ガラス張りになっているのも大きな特徴です。調理している音や匂いなどを子どもたちが自然に感じられる環境作りを行い、食育にも力を入れています。
また、子どもたちが安心できる遊びの空間の見直しを行い、子どもたちがいつでも好きなときに好きな玩具で遊べる「コーナー保育」も積極的に取り入れています。
こうして、子どもたちが伸び伸び遊び、さまざまな経験を積むことはもちろん、保護者も安心して預けられる場所…つまり「おうち」のような環境づくりに力をいれ、「おおきなおうち」は少しずつ形になりました。
思い切った変革から約35年経過した今も時代の変遷とともに、時代に即した保育を日々模索していきたいと菊地理事長は語ります。
それは、「自ら考え、判断し、行動できる」人材になってほしいという教育目標にもつながっています。
「大きなおうち」の保育環境づくり
菊地理事長が、北欧スタイルの保育に感銘を受け、保育園に活かそうと共に模索してきたのが、現、EDO日本橋保育園・石川美智子園長です。菊地理事長やスタッフと共に、さまざまな園を参考に試行錯誤しながら、常に子どもたちの環境づくりの見直しを図ってきました。
環境の見直しでは、「空間・時間・人間」の「三間」に注力。「空間」は、流れるような動きができる保育室、「時間」は時間を区切らないで子どもたちが遊べる、「人間」は保育者と子どもの信頼関係。
これらを踏まえ、石川園長が勤務するEDO日本橋保育園の実例を参考に、実際の空間作りを紹介します。
同園では、家庭的でほっとくつろげる空間を大切にし、優しい色使いや、ホンモノの絵や置物、植物などを置いたり、子どもサイズだけではなく大人サイズの家具を置いたりなど、「おうち」では当たり前にある空間作りを行っています。
保育室はもちろん、玄関や廊下、テラスなどにも、水槽やかわいらしい置物を置いて、子どもたちがまた行きたいと思えるような工夫も施されています。
遊びスペースは、ままごとや工作、生活教具、パズル、絵本、構成遊びなど、遊びそれぞれに適した広さの空間を作り、自発的に子どもが遊びやすい場所を提供。
子どもの年齢によって遊び方が異なるのも大きなポイント。0歳児には、安心感を与える鏡や暖色系の間接照明を取り入れたり、ハイハイやヨチヨチ歩きができる環境、1歳児には、玩具などを出し入れする機能訓練遊びや粗大遊び・微細遊びができる環境、2歳児には、生活習慣の自立を促すような環境作りを行っています。
これらはごく一部ですが、細かくあるさまざまな道具や各種材料の収納方法などにもこだわり、子どもたちが簡単に取り出しや片付けができたり、どこになにがあるのかがわかるようにしたり、塗り絵やハサミでカットする素材なども、季節ごとに異なる生き物や食材などを入れるようにしたりなど、さまざまな工夫が見られます。
おままごとやお絵かきなどはもちろん、ハサミやのりを使う工作や、カード遊び、ボードゲーム、色水作りなど、多様な遊びのツールがそろっています。こうした遊びを保育士たちが知ること、また自分が楽しいと思えるかという点も大切で、それがゆくゆくは保育現場で役立つと、石川先生はいいます。
また、現状の保育について満足することなく、スタッフ間で振り返って議論を重ねることや、時代の変化や子ども一人ひとりの異なる環境なども考慮したうえで変化させていってほしいとも訴えます。大人都合の保育ではなく、すべては子ども中心の保育をするために。それが、東京児童協会が掲げる4つの指針「生きる力・思いやり・夢・学びに向かう力」を育むことにもつながっています。
東京児童協会の保育理念を築きあげてきた菊地政幸理事長・菊地惠子園長・石川美智子園長。その想いを繋ぎ、時代のニーズに合わせた保育環境づくりにチャレンジしています。