保育園看護師とは、一般の人にはあまり耳馴染みのない言葉かもしれませんが、保育園で働く看護師のことを言います。「最高の保育環境を築きたい」という想いから、東京児童協会が運営する保育園・こども園の0歳児クラスのある19園全ての園に看護師がいます。今回のテーマは、「保育園に看護師がいることの意味」について。若手からベテランまでさまざまなキャリアを持つ6人の保育園看護師に、話を聞きました。
保育園看護師の仕事
保育園看護師の1日は、園児たちの体調確認から始まります。それから、前日にケガをした園児のケガの様子の確認。そのあと、病欠者、新型コロナウィルスの感染状況など、全クラスの確認をとります。確認作業が終わったら、今度は事務仕事。保健日誌を付けたり、毎月保護者に向けて発行している保健だよりの作成などに入ります。
その他の業務としては、3、4、5歳児を対象に、月に一度、『健康教室』を開いています。テーマは月ごとに変わり、インフルエンザなどの感染症が流行しだす時期には『手洗いのはなし』をしたり、6月4日の虫歯予防デーに合わせて『虫歯のはなし』をしたり。
たとえば、『耳のはなし』では、お友だちの耳のそばで「バン!」と大きな音を立てたらどうなるか、『鼻のはなし』のときには、鼻のなかにモノを入れたらどうなるかなど、体の構造を教えることで、子どもたちが何気なくやってしまう行為が、自分やお友だちの体にどんな危険を及ぼすのかを、伝えるようにしています。
もちろん、看護師の仕事はそれだけではありません。
園児は、保育士と看護師は違う種類の先生だと分かっていて、看護師の先生は、自分たちがケガをしたとき、熱を出したときに助けてくれる人だと思っているんです。
ですから、子どもたちの体のちょっとした変化を見逃さないように、普段の様子を把握すると同時に、体調の変化を教えてくれるように、日頃からコミュニケーションを取っておくことが大事なんです。
医療的知識で病気やケガのリスクを最小限にする
当法人の看護師の多くが、小児科や救命救急、総合病院など、病院勤務の看護師の前職から、「子どもと関わる看護師になりたい」「自分の子育ての反省から、若いお母さんの相談相手になりたい」「未来ある子どもたちの役に立ちたい」などの理由で、当法人に入職しています。
保育園看護師に転身すると、改めて現場のリスク管理の違いに気づきます。
たとえば、保育園では、園児が鼻血を出したときに、咄嗟に保育士が素手で鼻を押さえて止血しようとしますが、医療現場では必ず手袋をします。また、オムツ交換のときも、うんちやおしっこなどを決して素手では触りません。感染のリスクがあるからです。
また、乳児にご飯を提供するときに、食欲旺盛なお子さんはどんどん食べてしまいますが、看護師からすると、「それ以上食べると誤嚥する」と、危険を感じる場面もあります。
子どもは、外に出てたくさん遊びます。いろいろな物に興味を持ち、触ったりすることで成長していきます。特に小さい子どもは、周りにあるものを何でも口に入れてしまいますが、それも成長の過程です。だからこそ、子どもたちの遊びを見守りつつ、衛生的な環境が提供できるよう感染対策が必要になります。
それを疎かにすると、その子自身が病気に感染してしまうリスクも当然ながら、周りの大人や、園児にも感染させ、場合によっては集団感染を引き起こす恐れにもつながります。
私たちが持っている医療的知識を職員に分かりやすく伝え、実行できるようにするために、保育園看護師がいるんです。
保育園看護師の3つの責務
私たちの責務は3つあると考えています。
1つ目が、子どもの身に危険が起こらないように、先手先手を打って、予防線を張る。
2つ目が、何かあった場合には、迅速かつ的確な判断を下し、危険を回避、あるいは最小限に食い止める。
3つ目が、日頃から、子ども、保護者、保育士、栄養士に医療知識を分かりやすく伝えることで、子どもの健康を守る環境を強化していく。
病気やケガをした時に、家庭や保育園で優しく接してもらえたという体験は、子どもの健やかな成長につながっていくと感じます。
ですから、子どもたちがすこやかに成長していけるように、保護者と連携をとって、子どもの病気の早期発見、悪化させないための対処法、ゆっくり休んでもらうための家庭での過ごし方を、保護者の皆さんに伝えるのも、看護師の役割です。
ケガについて言えば、成長過程において全てのケガを防ぐのは難しいものの、被害を最小にする方法を周知していくことも、役目の一つと思っています。
また、育児をしていると、子どもの病気やケガに対し不安を感じることも多いと思います。病院に連れていくかどうかで判断を迷うこともあるでしょう。そういうときは、気軽に尋ねてもらえたら嬉しいですね。保育園看護師は、いつでもパパ、ママの良き相談相手でいたいなって思っています。
余談になりますが、保育園の看護師をやっていて、すごく嬉しかった出来事があります。それは、卒園した園児の一人が、私の姿を見て、看護師になりたいという夢を持ち、叶えてくれたことです。在園中だけではなく、その先の子どもたちの成長を知ることができるのも、保育園看護師の喜びのひとつです。
保育園に看護師が必要な理由
東京児童協会の保育園では、30年ほど前は、1つの園に2人の看護師を配置していました。今でも0歳児が入所する園には1人、園児の数が多い園の場合は、2人の看護師がいます。
かつては2ヶ月に一度、全園の看護師が集まりミーティングをしていました。医療的知見に基づいた子どもたちの安全対策を練ったり、医療知識を保育現場に根づかせる施策を考えたりするためです。現在ではオンラインに変わりましたが、月に一度、全体会議で現状報告、そして課題、情報などを共有しています。さらに、各グループに分かれた会議では、それぞれテーマを設け、保育園看護師としての知識やスキルの向上を図っています。
30年前から、当法人の考えは一貫しています。医療と保育、両方の知識を併せ持つ看護師がいることで、子ども、保護者、職員の誰もが安心できる安全な環境で保育すること。だからこそ、看護師が配置されているんです。
子どもたちが小さい頃から、その成長に携わることができるのが、保育園看護師という職業です。園児の健康を守ることはもちろん、乳幼児期に丈夫な体づくりをし、将来に渡って、その体を自分自身で守っていけるようにサポートしてあげることも、看護師に課せられた仕事だと思っています。
話をうかがったのは……
小串看護師(中央区・EDO日本橋保育園)
坂本看護師(台東区・台東区立たいとうこども園)
千葉看護師(中野区・橋場そらとみどりの保育園大きなおうち)
馬場看護師(江戸川区・かさい発みらい行きほいくえん)
濱田看護師(新宿区・新宿三つの木保育園もりさんかくしかく)
池辺看護師・岩下看護師(江戸川区・船堀中央保育園)