東京都内に22の認可保育園と認定こども園を運営する東京児童協会は、2018年度より『健康経営』を取り入れ、2019年には経済産業省より『健康経営優良法人(ホワイト500) 』に、さらに、その後4年連続で『健康経営優良法人(大規模法人部門) 』に認定されています。
健康経営導入の背景には、菊地政幸理事長の「笑顔あふれる保育園にしたい」との想いがありました。この想いの意味するもの、また健康経営の取り組みの意義と効果について、取材しました。
健康経営で笑顔の連鎖を目指す
――健康経営を導入した目的は何ですか?
菊地理事長:健康経営を取り入れる前から、健康診断や産業医によるカウンセリングなど、職員が安心して働ける環境整備をしていましたが、残業が多かったり、一人で仕事を抱え込んでいたり、無理をしている職員が多い状況にありました。仕事に没頭するあまり自身のケアが後回しになっていて、残念ながら、制度が十分に活用されているとは言い難い状態でした。
それと時期を同じくして、私自身が生死に関わる大病をし、健康への慢心が、いかに自分の体に無理を強いていたか、ということに改めて気づいたんです。必要以上の負荷がかる状態が続くと、人は笑顔を失ってしまいます。病気やケガなどで健康を害すると、なおさら笑顔になれなくなってしまいます。
私は、保育園という場所は、子どもを笑顔にする場所であり、子どもが笑顔になることで、その先の保護者、地域の方々を笑顔にしていけると考えています。そのためには、まずは職員が笑顔になること。
職員が自身の健康を大切に思い、毎日を笑顔でイキイキと過ごせることで、その職員と触れ合う子どもたちは、毎日保育園に通うのが楽しくなります。保育園が、子どもの笑顔あふれる場所であればこそ、保護者の皆さんは、安心して仕事に向かうことができます。そして、職員が健康で長く働き続けることができれば、教育保育の質を向上させることにもつながります。
そのためには、職員が健康に対する意識を高め、健康を維持、増進できるようにしなければなりません。その第一歩が、従来の制度を職員一人ひとりに周知させることでした。
さまざまな施策を整理し、場合によっては拡充し、活用する。当法人が行なっていたこと、さらにこれから行なおうとしていたことが、経済産業省が推進する健康経営の考えや目的と合致していたので、それが導入のきっかけになりました。
一人ひとりの健康を皆で支える
――ご自身の健康の秘訣を教えてください
菊地理事長:もともと気持ちの切り替えが早く、ストレスをため込むことが少なかったんですが、それでもさまざまな役職を兼務する中で、仕事に忙殺され、健康管理がおろそかになっていました。大病を患って以降は、産業医のアドバイスに従い定期的に検査を受けています。いまは専門家に診てもらっているという安心感の中で、バランスを取りながら仕事をすることができています。
特に意識しているのが、太り過ぎず、やせ過ぎずの体重維持で、体重、歩数、睡眠時間を毎日スマホで管理し、自分の健康状態を把握しています。
食生活にも気を配って、朝食は、前日の夜にヨーグルトメーカーで仕込んでおいた手作りヨーグルトに、バナナとブルーベリーを加えたもの。昼食と夕食は、肉と野菜を中心としたメニューで、サラダは必ず自分で作っています。
健康維持のため日課としているのが、5000歩を目標にしたウォーキングです。車移動が多い日だと、目標達成できないんですけどね(笑)。
病を経て、仕事をのめり込み過ぎないことも大事だと学びました。仕事にのめり込むあまり、体を壊してしまい、結果として周りに迷惑をかけることになってしまいましたが、これは、自分にとっても周りにとっても、不幸なことです。
自分の経験から、職員についても、一人で抱え込み過ぎないように、園内でも法人組織全体としても、一人を皆で支え合うシステムを作り、整備しました。実際に私自身も、事務局や各園園長、職員に支えてもらって現在仕事に励むことができています。支え合いのシステム――これは、健康経営の中核をなしていると考えています。
数字で立証された健康経営の確かな手ごたえ
――健康経営の取り組みの効果について、どう感じていますか?
菊地理事長:当法人職員は、9割が女性で、そのうちの7割が20代・30代という構成ですが、年齢が若いと健康に対する意識が低く、病気に気づいたときには、進行してしまっているケースが少なくありません。
近ごろの傾向としては、保育特有の腰痛の他、乳がんをはじめとした女性特有の病気や、メンタル不調などで長期休養する職員が多くなっています。
病気やケガの予防、病気の早期発見を促すために、職員のヘルスリテラシーの向上を図ることが必要だと考え、その施策として、職員で構成されている委員会が中心となり、健康に関する研修をたくさん実施しています。たとえば、「睡眠研修」「がんと両立支援」「栄養研修」「メンタルヘルスケア」「女性特有の病気研修」「シニア研修」「運動(ヨガ等)」などです。
そうしたさまざまな研修を企画、実施した結果、健康診断では、法令で定められている範囲を大幅に超えて受診させているものの、要検査と精密検査受診率が30~40%台だったものが、じつに85%まで増加しました。研修への参加により職員のヘルスリテラシー(健康への意識)が向上したこと、加えて、産業医、事務局、園長、看護師が連携して手厚くフォローアップしたことが、功を奏したのだと思っています。
さらに、仕事や悩みなどを一人で抱え込み過ぎないという点については、職員の思いを受け止め、自己肯定感を持ってもらえるよう、「人事考課面談」「キャリアアップ面談」「入職後1ヵ月面談」「入職後3ヶ月面談」など、園長との面談回数を増やし、話す機会を多く設けるようにしました。さらに、年2回、外部の産業カウンセラーによる「派遣カウンセリング」を実施するなど、多様な対策を講じたところ、毎年職員に回答してもらっている『従業員満足度調査』の結果に、大きな変化が見られるようになりました。
職員の仕事に対する活力・熱意・没頭の値を示す『ワークエンゲイジメント』の数字が、2019年度3.77、2020年度3.65とコロナ禍で落ち込んでいたのですが、2021年度には最大値5.0のうちの3.85と飛躍的に向上し、確かな成果を実感しています。
私は、職員の心身の健康は、職員はもとより、そのご家族にとっても幸福な生活を送っていただくための基盤だと思っています。さらには、職員が健康だからこそ活気のある職場づくりが可能となり、私たちの目指す教育保育が実現できるのだと考えています。ですから、職員の健康を支えることが、組織として取り組むべき最優先事項なんです。
東京児童協会は、これからも職員が働きやすい職場づくりをさらに推進し、ストレスや疾病に関連する健康影響のリスクを低減、全職員の心身の健康づくりの実現を目指し努力していきます。これは、トップランナーとして、教育保育業界をリードする当法人の想いです。