都内に22の保育園を運営する「東京児童協会」。保育を行ううえで長年「食育」を大切にしてきました。さまざまな体験を通して日頃から食育活動を積極的に行う同法人の食に対する想いを、すみだ中和こころ保育園で栄養士として活躍する中島先生に伺いました。
「食育」の大切さ
今でこそ「食育」はさまざまな教育現場で展開されていますが、東京児童協会では、いち早くその重要性に重きをおき、菊地惠子園長(現・神田淡路町保育園大きなおうち勤務)が中心となってさまざまな食育活動を行ってきました。
もともと内閣府が主催する「食育推進評価専門委員会」の一員だった同法人の菊地惠子園長。そこで、幼児教育分野の専門委員として活躍していたことがきっかけだったそう。
食育活動は、生活や健康に深く関わる「食」への興味・関心を引き出し、乳幼児という大切な時期に月齢に合った食事を取ることで、心身ともに健康を維持するためには必須。だからこそ食育活動における環境作りや体験などにも力を入れています。
3つの食「食育」・「植育」・「触食」
東京児童協会では、年間目標「おいしく楽しく食べる子どもを育てる」という大テーマを掲げ、食育・植育・触育の3つの「しょく」育活動を行っています。
【食育】…安心・安全なおいしい食事を提供する。お友だちと食事を囲み、食べる楽しさや喜びを伝える。
【植育】…季節の野菜を自分たちで栽培、収穫し、大切に育てる心を養う。
【触育】…食材に触れ、見たり、匂いをかいだりなど、食への興味・感心を育て、命をいただいていることの大切さを伝える。
食育に力を入れている東京児童協会が運営する各園には、栄養士が2人以上在籍し、児童数が多い園は5人ほど在籍しています。
季節に応じた旬な野菜や彩りを考えた献立を作ったり、年齢ごとに異なる食事の用意だけにとどまらず、食材の栽培や食に関する知識なども日々の保育活動に取り入れられています。
22のすべての園において、食育活動の一環として調理スペースがガラス張りになっています。各園にいる栄養士が作った献立を調理する「音」や「匂い」を子どもたちがいつでも感じることができるのもここならでは。
また、同協会が運営する園の中には、もともとシェフだった方が給食を作っている園もあり、日常的に食につながる環境が整っています。
また、食に関する体験なども積極的に行っていて、鮭の解体を目の前で見る催しも実施。
包丁が骨に当たる音を聞いたり、パーツによって色が異なることを知ったり、鮭のお腹からいくらが出てきたり…。実際に目の前でさばくからこそ五感で感じたり見たりできる光景に子どもたちは興味津々だそう。こうした「触育」も子どもにとっては貴重な機会です。
解体された鮭が給食メニューになって出てきたときには「ちゃんと食べないとかわいそうだよね」と、全員残さずきれいに食べてくれたそうです。命をいただいていること、つまり「いただきます、ごちそうさま」を体感する瞬間でもあります。
また、夏野菜や冬野菜、米などを子どもたちが育てる「植育」活動も。
水をあげたり、虫が付いていないかをチェックしたり、成長を確認しながら日々お世話をする活動も各園で実施されています。
こうした活動を行うことで、もともと1つの食材しか食べられなかった偏食の子どもが、5歳になるころには、みんなと同じ給食を食べられるようになったこともあるそうです。
「普段から子どもたちと積極的に接するようにしています。また、給食に郷土料理を入れたりすることもあり、例えば、その都道府県を型どった塗り絵や、その地域の特色を学んだりすることもあり、保育士の先生方と連携して日々の保育に取り入れたりもしています」と中島先生。
子どもたちが黄色と白色のももは何が違うの?といった子どもたちの食に関する素朴な疑問を保育士の先生から聞いたときは、実際に生の食材を用意して、それぞれの違いをみんなで確認するなど、栄養士と保育士が日常的に連携していることも多いそう。
また、毎月食に関してまとめた冊子を保護者や地域の人に配布したり、講座を開催したり、園の中だけにとどまらず、地域の人にも貢献する活動も行っています。
さらに、各園では、3色に色分けされたボード(三色食品群)を用意し、毎日の食事をより身近に感じてもらえる工夫なども。
コロナ禍で少人数に区切って同じ方向を向いて話さずに食べるようになってしまった現在ですが、そんな状況でも、園内のテラスや屋上スペースなどを使って少人数で食事をとるなど、子どもたちが楽しく食事ができるような活動を展開。こうして、栄養士と保育士など各スタッフによって食育の大切さを日常的に子どもたちに伝える環境づくり・保育を行っています。
お話を伺ったのは…
栄養士・中島先生(すみだ中和こころ保育園)