現役大学教授から教わるアート教室|江東区南砂さくら保育園

東京児童協会が運営する22の保育園には、各園のテーマが設けられ、それに関連した活動をそれぞれ行っています。そのうちの一つ、アートがテーマの「江東区南砂さくら保育園」では、定期的にアート教室が開催されています。

今回は、講師役に白梅学園大学子ども学部発達臨床学科教授でもある杉山貴洋先生を招いて実施されたアート教室をレポートします。

アトリエルームでアート教室

「江東区南砂さくら保育園」は、園庭がないことから、室内でも充実した遊びにつながるようにと、「アトリエルーム」が設けられています。「アートは正解・不正解がないものだけに、子どもたちが自由に発想をするにはうってつけの場所なんです」と話してくれたのは、同園の小堀園長。

園内の玄関や階段、壁など、さまざまな場所に子どもたちが創作したアート作品が並んでいます。

同園のアトリエ教室を使ったアート教室立ち上げ時から関わっていたのが、杉山先生。現在は月1回のペースで本園を訪れているほか、東京児童協会が運営する22の保育園の約半数ほどの園で講師としてたくさんの子どもたちにアート体験を行っています。

白梅学園大学子ども学部発達臨床学科教授でもある杉山貴洋先生は、武蔵野美術大学造形学部視覚伝達デザイン学科を卒業後、造形アートやワークショップに関する書籍の執筆、ワークショップ講師としてなど、アートに加えて幼児教育にも造詣が深く、これまで数々の分野で活躍されてきました。

「アートで小さなおうちだいさくせん」

今回のアートワークショップでは、窓がひらくおうち作りに挑戦します。

挨拶をすませ、まずはこの日行うアートを大きく3つに分けて説明します。子どもにも理解できるように、ひらがなで書かれた3つの工程「やねのかたちをきる」「いえをローラーペイント」「すんでいるひとをえがいてがったい」をみんなで一緒に声に出して理解を深めます。

最初の工程では、まる、さんかくの屋根が用意され、自分たちで好きな形を選んでハサミでカットします。

「ちょうちょみたい!」など、自分たちでカットした屋根の形を見てイメージをふくらませる子どもたち。

屋根をカットすると、次はローラーを使ったペイントに挑戦!「みんなペンキ屋さんになって伸ばして塗ってみよう!」と、まずは杉山先生がお手本を見せてくれます。

自分の屋根が塗り終わったら、今度はペアになって中央に配された立体的なおうちにもペイントしていきます。

青色と白色をローラーで混ぜると変化する色に、「雪の結晶の色になった!」と子どもたち。赤色と緑色を混ぜた別のグループは、黄色に染まったローラーでゴシゴシ塗り上げ、「卵焼きにしちゃう!」とひとこと言。またあるグループは「メロン色になっちゃった!」など、子どもたちの自由な発想でさまざまなアートが次々に出来上がっていきます。

手のひらや手の甲にもローラーで塗り、満面の笑みで「手が汚れちゃった!」と子どもたち。立体のおうちは、手形アートもしっかりペイントして、世界に一つだけの自分たちのアート作品に。

次に自分で描いたアートを貼り付けておうちと合体させます。おうちのドアをめくると、自画像や動物など、描いた生き物がドア越しに登場する仕掛けになっています。

ここで子どもたちは、あることを思いついた様子。「顔出しパネル」の感覚で、開閉式のドアに自分の顔を収めてお友だち同士でご挨拶…そんな微笑ましい光景も見られました。

最後に、屋根をシールで装飾すれば、オリジナルのアート作品「おうち」が完成!

赤色や青色のおうちは、どれも個性的なアート作品で大満足の子どもたち。

現役大学教授・杉山先生流「ワークショップ」とは?

杉山先生が考える「ワークショップ」は、全員が「アクター」になることを心掛けているそうです。子どもが主役というのはもちろん、先生も保育士も、材料も道具も。それら「アクター」が混ざり合っていくような舞台ということです。

日本では「ワークショップ」は、体験学習や参加型の教室と広義な意味合いで使われることがほとんど。ですが、ワークショップの源流をたどっていくと、全身や五感を使って、アドリブやインスピレーションが生かされる演劇的な要素を含んでいるそう。

それは、抑揚をつけて話す杉山先生の口調にも現れています。また、「オッケーべリーグ―!」と台詞のようなリズミカルな声掛けで、子どもたちはあっという間に演劇調のアートな空間に引き込まれていきます。

造形アートを通じて、オリジナルの色を作ったり、新しい工作を覚えたり、思いがけず手形アートを作ってみたり…。アートワークショップの空間が空間がいわば、演劇の舞台。子ども一人ひとりに、それぞれ異なるストーリーが展開されているという寸法です。

塗り絵タイムでは、同じ素材の塗り絵を数枚作り、空模様に変化つけて晴れや雨、曇りのときなど、天気による違いを表現する子どももいて、個性的な“オリジナルストーリー”展開に感心する大人たち。

また、教育のなかには、算数のように知識が体系だった「系統主義」の教育もあれば、子どもの感覚や感性に働きかける「経験主義」の教育もあります。杉山先生のワークショップでは、後者に重きをおいているのも特徴的です。

さらに、杉山先生が子どもたちに対して大切にしているのは、「邪念」を抱かないこと。大人の常識にあてはめるのではなく、子どもたち自身が描く世界観を尊重してあげること。

「先入観や固定概念で凝り固まっている思考になりがちな大人とはまた違って、さまざまな発想をする子どもたちと接すると、若さをもらえる気がします」と、自身もアートワークショップを心から楽しんでいる杉山先生。

杉山先生流アート教室は、事前にカリキュラムを組んでいるわけではなく、そのときどきで、どうしたら子どもたちに楽しんでもらえるかを都度考えながら取り組んでいます。

アート教室のメリットって?

小堀園長は、さまざまなアートを繰り返し行うことで、集中力が伸びたり、細かい作業ができるようになったり、自信がついたりなど、アートワークショップをやることのメリットを感じているそう。また、顔を描けなかったり、色の選択に迷っていたりなど、できなかったことに対して少しずつ自分でイメージができるようになっている様子を見て、子どもの成長を実感することも。

子どもたち自身が思い立って、雪だるまを作って壁に貼ったり、発表会で作った背景アートを卒園式で使った花紙をちぎって上から貼り付けるなど、アートへの興味関心は尽きません。

園の階段の壁には、そんな好奇心旺盛な子どもたちが作った大作が飾られています。子どもたちが大好きな絵本を題材に、自由に描いてもらった作品だそうです。約1ヶ月かけて作った彩り豊かなアート作品を見ると、楽しんで描いている様子が伝わります。

コロナ前などは、ボディペイントやシャボン玉を使ったアクティブなアート作品作りを行ったり、季節や発表会のテーマに沿ったアートを行ったりするなど、そのときの状況や環境に応じて実施されているアートワークショップ。1年の集大成として、その年に行ったアートをまとめた冊子を配布するなど、保護者にとってもうれしい取り組みも行われています。

ちなみに、かつて本園でアート教室を体験した卒園児が、中学生になるころにアート関連の賞を受賞したり、高校に進学すると、演劇の裏方を担ったりなど、保育園から巣立った今もアートに深く関わっていることもあるといいます。

アートは、子どもたち本来の自由な発想を解き放ち、豊かな心を育み、成長の一助になる可能性を秘めた体験学習です。

江東区南砂さくら保育園では、今後も子どもたち一人ひとりのストーリーを描きながら、たくさんのアート作品が創作されていくに違いありません。

ONE ROOF ALLIANCE ワンルーフアライアンス

ONE ROOF ALLIANCE ワンルーフアライアンス
現在、都内22の認可保育園と認定こども園を運営する「社会福祉法人東京児童協会」と、企業主導型保育園や学童保育の運営、海外への保育事業を展開する「株式会社ONE ROOF」が主体となり、新しい子育て社会を実現していくネットワークです。