東京児童協会が運営する「江東区白河かもめ保育園」の給食は、プロフェッショナルなこだわりがたくさん詰まったメニューが毎日提供されています。それもそのはず、同園には、かつて三ツ星レストランに勤務していた経験を持つシェフ・志賀さんが在籍しているから。
そこで、保育園のシェフとして働くきっかけや、子どもたちへの想いなどを志賀さんに伺いました。
一流レストランのシェフから保育園のシェフに
現在「江東区白河かもめ保育園」のシェフとして勤務する志賀さん。かつては三ツ星レストランや一流ホテルのシェフとして15年以上勤務していた経験があります。
そもそも保育園のシェフになったきっかけは、レストランでシェフとして勤務していたころ、ある障害者支援施設を訪れたことに端を発します。
志賀さんはその施設で料理を振る舞いますが、ホテルのような豪華なメニューではなく、からあげやサンドウイッチなどのごく一般的な家庭料理を提供します。調理を終え、いざ帰ろうとしたそのとき、自分が作った料理を食べてくれた人たちから思いがけない言葉をもらいます。
「おいしいものを作ってくれて、ありがとうございます」
志賀さんにこの言葉を送った人たちは、じつは言語障害により話すことも大変な境遇。それでも、たどたどしくも一生懸命「感謝の言葉」を伝えてくれたのです。その言葉を聞いたとき、気が付くと涙が溢れていたそうです。
それからというもの、その言葉が頭から離れなかった志賀さん。
「いったい自分はだれのために料理を作っているんだろう?」
「もっと世の中に貢献できる場所があるのでは?」
と、自問自答してきました。ですが、答えがでないままレストランのシェフとしての日々を過ごします。
保育園のシェフになる!
数年後、当時志賀さんの子どもが通っていた東京児童協会の保育園から「保育園のシェフ」として来てほしいと相談を受けます。これまでに、園から頼まれて数回イベント的に調理を行ったことはあったものの、正式にシェフとしてオファー受けるとは思いもよらず。
ですが志賀さんは、1ヶ月ほど悩んだ末、「「これが求めていた場所や環境なのかもしれない」と、「一流レストランのシェフ」という肩書を捨て、「保育園のシェフ」として新たな環境に進む決心をします。
ずっと頭の片隅にあったあの時の答えが見つけられるかもしれない…そんな思いがあったのかもしれません。
一流シェフのこだわり
それから18年、現在在籍する江東区白河かもめ保育園はもちろん、東京児童協会が運営するさまざまな保育園でシェフとしてはもちろん、食に関する土台作りにも深く関わってきました。
新たに園ができるときは、調理場の環境を整える役割を担い、これまで培った経験を活かして栄養士の指南役としても活躍。今や、東京児童協会にとって、なくてはならない人です。
もちろん調理のこだわりもプロフェッショナルな志賀さん。子ども向けに塩分を控えて薄味にするのは一般的ですが、さらに湿度や温度なども計算したうえで、ベストタイミングで「できたて」の食事を提供。
また、水分を多く含む食材を使う場合は、調味料でしっかり微調整するなど、少しの手間も惜しまず、どのメニューにも一流のシェフとして培った経験や技が活かされています。
子どもたちに伝えたいこと
「食」は、人が生まれてから世の中を去るまでずっと関わること。だからこそ「食」の大切さ感じてほしいと語る志賀さん。また、保育園は言わば思い出を作る場所でもあるため、「味覚」を思い出として子どもたちに残したいとも話してくれました。
以前、中学生になった卒園生を園に招いたときに、思い出に残っていることを聞くと、「シェフが作った給食がおいしかった!」との返答があり、このときは、本当にうれしかったと目を細める志賀さん。志賀さんの想いは子どもたちに確かに届いているようです。
根幹にあるのは、東京児童協会が掲げる3つの「しょく」育活動でもある「食育・植育・触育」。野菜を植えて収穫したり、味噌やうどんなどを実際に子どもたちに作ってもらったり、さまざまな体験を通じて食に関心を持ってもらえる活動を行っているといいます。
栄養士に伝えたいこと
栄養士を目指す人たちに届けたい言葉を伺ったところ、「料理を作れる栄養士になりなさい」とひと言。
全国にある栄養士学校は、当然カリキュラムもさまざまで、なかには料理をあまりしない場合もあるといいます。こうした状況を踏まえ、栄養士に向けた研修会を実施したことも。食材の切り方や出汁のとり方など、調理をするうえでの基本の「キ」を学べる場を作り、栄養士の成長をときには見守り、指導しています。コロナ禍でなかなか集まれる機会が少なくなってしまったものの、今後も栄養士に向けた学びの場を作っていきたいと語る志賀さん。
また、「保育園に今自分がいることが、天命のような気がしています。また、社会に還元することができているのかな」と穏やかな口調で話す志賀さんは、たくさんの園児たちの記憶に残る「味覚」を届け続けています。
現在勤務する「江東区白河かもめ保育園」の大竹園長が「志賀さんはマスコット的な人なんです」と話してくれたように、志賀さんは、だれからも好かれる人情味あふれる一流シェフです。