現役栄養士に聞く!  食が育む、子どもたちの心|東京児童協会

東京児童協会が運営する22の保育園・こども園では、旬な食材を使った完全手作りの自園給食を提供しています。そして、それを担っているのが各園の栄養士さん‼ 献立作り、食材の手配、調理、テーマ野菜のお話などなど、〝食〟によって保育園を支える、縁の下の力持ちです。

当法人の栄養士は、栄養バランスに配慮した食事で成長過程の子どもの体づくりをサポートするだけではなく、食による子どもたちの豊かな心の形成にも寄与しています。今回は、3園の栄養士に参加してもらい、「食を通じた子どもの心の育みと活動」について、お話を聞きました。

季節を感じられるメニュー

当法人の栄養士は、栄養士として献立を考えるだけではなく、調理をはじめ、食に関することを一手に担っています。入職した栄養士の中には、当初そのことで戸惑う人もいますが、食全般を任されている分、自分がやりたいと思ったことを提案し実現することもできます。

〝食〟とは、食べるという行為にとどまらず、子どもたちの情操教育にもながるものだと思っています。なので、私たち栄養士は、食が子どもたちの心を育む機会になるようにさまざまな試みをしています。
一例が、季節を感じられるよう、給食を工夫することです。

たとえば、園庭の紫陽花が咲く梅雨時分に、私の園で作ったのが紫陽花ゼリーです。ゼリーの横には、画用紙で作ったカタツムリと一緒に、庭で摘んだ紫陽花を添えます。そうすると、子どもたちが好きなカタツムリのいる雨の時期は、紫陽花が咲く季節なんだと知ってもらうことができます。

夏のスイカの時期には、カットしたスイカを出すだけではなく、スイカの実を丸くくり抜いて、皮を容器にしたフルーツポンチにしてあげる。そうすることで、もともとのスイカの大きさや形状が分かります。

秋口の、栗やお芋の季節には、それをモチーフにしたもの。お芋なら、2色のお芋を使い、外側の皮の部分は紫に、中は黄色にと、配色も本物と同じスイートポテトにしてあげる。もちろん形も、本物のお芋の形で。

秋の味覚、クリのクッキーやモンブラン、どら焼きも、大好評でした。

クリスマスのときには、横半分にカットしたイチゴのなかにホイップクリームを挟んで、おヒゲに見立てたサンタさん。

季節、季節の題材を見た目も楽しく工夫すると、子どものテンションも上がりますし、ともすれば見過ごしてしまう四季の風景や行事について、子どもたちの好奇心を呼び起こすこともできます。食を通じて、子どもたちに、美しい日本の四季を感じられる心を養ってあげたいですね。

作ることで気づく、たくさんの「はてな?」

食べることは、食材やお料理など、それを作ってくれる人がいるからこそ成り立ちます。子どもたちにも、食べるだけではなく逆の立場になって、作ることで知る発見や疑問、驚き、喜びなどを経験してもらいたいと、ジュースやジャム、調味料作りなどを一緒にしています。

初夏にたくさんの梅の実が庭の木になったのをきっかけに、みんなで梅ジュース作りをしたことがありました。まず収穫した梅の実を丁寧に洗うところから始め、拭いた梅の実に爪楊枝を数か所刺します。
そこで、子どもたちに〝はてな〟が浮かびます。「なんで穴を開けるの?」と。

その疑問に答えると、次は、密閉ビンと氷砂糖を用意し、ビンのなかに、氷砂糖と梅を交互に入れていきます。そこで、また〝はてな〟。「氷砂糖って何?」。氷砂糖を初めて見る園児もたくさんいるので、「じゃあ、食べてみよう!」。よく口にする砂糖と同じで甘いけど、「何で〝氷〟って付くの?」と、またまた疑問。作ることで、たくさんの〝はてな〟に気づくんです。

それからは、ジュースが出来上がるまで毎日観察が始まります。氷砂糖が溶け、梅からエキスが染み出し、梅が色を変えシワが出来、浮かんでいく様子を見ながら、食材がどんなふうに変化していくのか興味津々。そうして出来上がったジュースは、子どもたちにとって格別な味わいだったようで、美味しそうにゴクゴクと飲んでいました。

ほかにも、日本の伝統的な調味料の味噌作りをして、食育で育てたキュウリにつけて食べるとか、園庭になったジューンベリーをジャムにして、給食のときにパンに塗って食べるという体験などもしました。

自分たちが丹精込めて作ったものが、形を変えて、自分たちの口に入る。「どういう味になるんだろう?」と想像力を働かせつつ、感動を味わってもらえたら嬉しいですね。

大きなおうちのなかで身につく食事のマナー

当法人のコンセプトは、大きなおうちのなかで、みんなが支え合い育み合うこと。それは、食事の場でも生かされていて、本来は、園児たちと職員である大人が一緒になって給食を食べながら、子どもたちは大人から箸の持ち方や、食事のマナーなどを教わるんです。
ここ数年コロナ禍でできていないのですが、元通りの日常が送れる日が来たら、復活させたいですね。

さらに、これもコロナ禍で変更していることですが、コロナ以前は、園児たちは自分で配膳をしていました。自分でお皿を持って、そこに自分が食べる料理をよそいます。そうすることで、自分が食べられる量が分かりますし、どうやって盛り付けたら、綺麗に見えるのかを考えるようにもなります。

自分で盛りつけて学べることのひとつに、配膳の決まり事もあります。ご飯は左、汁は右、右奥に主菜、左奥に副菜というように、そこにいる大人が声掛けをすることで、子どもたちは、それを自然に身についていきます。

子どもたちが将来困らないように、食事のマナーを小さいうちからきちんと教えてあげることも、私たち栄養士の役目のひとつだと考えています。

保育園栄養士としての喜び

当法人の栄養士は調理もするんですが、仕事での調理経験がない栄養士の場合、当初、時間通りに給食を提供できるかプレッシャーを感じることもあります。そのプレッシャーを乗り越える原動力になるのが、やはり「美味しかった!」の言葉です。

私は入職して初めて任されたのが汁の味付けだったんですが、子どもたちから「今日の汁、すごく美味しかった!」と言われたときに、それまでの不安が一気に吹き飛び、ホッとすると同時になんとも言えない嬉しさがこみ上げてきまたことを覚えています。

残食がなく食べ切ってもらえたり、子どもからだけではなく職員からも美味しかったと言ってもらえることが、保育園の食を担う私たちの喜びであり、私たちの作った食事が、園児や職員たちの活力になっていることが、やりがいでもあります。

さらに、食を通じて、自分自身も楽しむことが大事だと思っています。「先生一人じゃできないから、みんな手伝ってよ」と言って園児や他の職員を巻き込んで、やりたい企画を実行する。場合によっては、子どもたちに任せしちゃってもいいと思います。
子どもたちの心が豊かになることが、私たち栄養士の心を豊かにしてくれます。そして、それが、保育園栄養士の仕事のモチベーションになっていますね。

 

今回お話をうかがったのは……

ONE ROOF ALLIANCE ワンルーフアライアンス

ONE ROOF ALLIANCE ワンルーフアライアンス
現在、都内22の認可保育園と認定こども園を運営する「社会福祉法人東京児童協会」と、企業主導型保育園や学童保育の運営、海外への保育事業を展開する「株式会社ONE ROOF」が主体となり、新しい子育て社会を実現していくネットワークです。