【企業主導型保育が抱える問題】急増した背景と今後の課題・解決策

働き方改革、女性の雇用促進、子育て支援など、仕事・子育てに関する取り組みがますます進む今日、企業には「子どもを持つ親(従業員)が安心して働ける環境づくり」が急速に求められています。企業主導型保育は、そのニーズに応えるための重要な事業の一つです。ただし、企業主導型保育の実態は、全国的に休園や定員割れといった問題が相次いで起きているのが現状です。

今回は、急増する企業主導型保育に関する問題やその背景・理由を見ていきながら、解決策・改善策について解説します。

企業主導型保育に浮かぶ問題点

内閣府によると、企業主導型保育事業のメリットとして、以下の4つが挙げられています。

  • 女性活躍の推進(従業員へのメリット)
  • 優秀な人材の採用と確保(会社へのメリット)
  • 地域貢献(地域へのメリット)
  • 企業イメージの向上(従業員・会社へのメリット)

■参考URL:内閣府 企業主導型保育事業の制度の概要と企業のメリット

これらを見ると、企業・従業員・地域社会の全方向にメリットがあり、問題点のない事業に思えます。しかし、本事業が平成28年にスタートしたばかりの新事業であることや、質ではなく量を増やすことに重点が置かれ過ぎてきた経緯から、現場ではさまざまな問題が浮かび上がっているのが実情です。

待機児童問題の解消に期待されたが?

企業主導型保育に対して、特に期待されていた社会課題が待機児童の解消です。平成31年3月18日に行われた企業主導型保育事業の円滑な実施に向けた検討委員会の報告書では、「待機児童対策への貢献」が制度の意義として冒頭に挙げられています。

■参考URL:企業主導型保育事業の円滑な獅子に向けた検討委員会報告

厚生労働省の公表では、平成30年10月の保育所等の待機児童数は47,198人で、平成29年の10月と比較して8,235人減少していることがわかります。数字だけを見ると、企業主導型保育は待機児童の解消に一定の貢献をしているといえるでしょう。

■参考URL:厚生労働省 平成30年10月時点の保育所等の待機児童数の状況について

今後、制度がさらに見直される可能性も

しかし企業主導型保育は、事業としてまだまだ発展途上といえます。今後、制度が繰り返し見直される可能性が高いことにも注目しておくべきです。特に、設置を検討している企業は、慎重に参入のタイミングを見極める必要があります。

設置すること自体が目的化してしまうのは危険です。新制度への理解と、起こりうる問題への対応策を後回しにしてしまうと、「保育中に重大な事故が起きた」「設置後すぐに休園に追い込まれた」など、ニュースでもたびたび報道されているような重大な運営上のリスクを招く要因になります。

次に、企業主導型保育には待機児童数の減少などのメリットがある反面、実際の現場ではどのような深刻な問題が起こっているのか、具体的に見ていきます。

問題1:保育の質が低下

子どもと遊ぶ女性

企業主導型保育の問題点として挙げられるのが、保育の質の低下です。「保育の質」とは、保育の場が子どもに提供・準備する環境や経験のすべてを指します。これを生み出すのは、現場で働く保育士をはじめとした職員です。

知識・経験不足による保育の質低下

保育の質が低下する要因の一つは、職場の有資格者の数です。企業主導型保育では、定員数にかかわらず、保育士の資格を持つ者が職員全体の2分の1以上いればよいことになっています。例えば、4人職員がいれば2人は保育業界が全くの未経験者でも問題ありません。このことから、保育の専門的なノウハウを持つ職員が少ないことが、保育の質を低下させる要因になり得るという見方があるのです。

認可外保育施設である企業主導型保育と混同されがちですが、事業所内保育は認可保育施設です。事業所内保育では、定員20名以上の場合、全員が保育士であることが配置基準で定められています。(20人未満は2分の1)

こうした基準の違いから、事業所内保育の方が、保育士の経験・知識不足による質低下のリスクを抑えられる環境にある、といえるのかもしれません。

問題2:保育士の不足

まだまだ認知度が浅い企業主導型保育施設では、保育士不足も深刻な問題です。「そもそも企業主導型保育とはどんな施設だろう?」と疑問を持つ人は多く、募集をかけても人材がなかなか集まらないなど、頭を悩ませている運営者が少なくありません。

保育士不足が深刻な問題

保育士不足は、保育の質を下げるリスクとも密接に関係しています。子どもを預けている保護者から、子どもの安全性や健全な保育環境の整備に対する不安の声が上がることは、会社として信頼性の面で大きなリスクです。

保育士不足を始めとした、事業運営に対する不安が大きい企業・経営者は、企業主導型保育に特化した運営支援サービスの利用も積極的に検討するべきでしょう。職員の募集や教育、助成金申請のサポート、保育の安全管理などを、バックアップしてくれます。

ハグシルでは保育事業の運営支援サービスを行っているため、ご相談可能です。

問題3:児童の定員割れを起こす

定員割れが起きる原因は、一つではありません。

例えば、保育業界のノウハウが足りないことから保育の質が下がり、保護者や児童の不安につながります。保護者や児童が不安を感じれば、悪いうわさが立たないとも限りません。保育の質の低下は、児童の定員割れに深く関係してくるのです。

加えて、業界の知識がなければ、求人方法や面接などでの対応の不適切といった事態が考えられます。結果として保育士が十分に集まらず、児童が集められないということになるのです。

また、「そもそも社員の中に実際に利用する人がほとんどいなかった」など、事前のリサーチ不足が要因の場合もあります。

児童が集まらないと経営難に

「待機児童があふれているのに、なぜ定員割れを起こすのか?」と疑問に思う方も多いかもしれません。

しかし、内閣府の調査を公開した東京新聞(2019年1月22日朝刊)の記事によると、企業主導型保育所の定員に占める児童の割合(充足率)は、60%にとどまるがわかっています。40%が“空き”の状態に陥っているのです。本記事では、平成28年の制度開始以降、定員割れが運営上の大きな課題になり、経営状態の悪化などで休園に追い込まれる問題が相次いでいることも言及されています。

参考URL:東京新聞 企業保育所 定員40%空き 内閣府1420施設調査

児童不足による経営難の問題を防ぐためには、社員・従業員の子どもに限らず、周辺地域の子どもを広く受け入れるプラン・体制をしっかりと策定するなど、対策と工夫が重要です。

まとめ

子どもと女性と建物

ここまで述べたあらゆる問題点を改善するため、企業主導型保育事業は、2019年3月18日に検討委員会報告に基づいて、制度のあり方が見直されている最中です。

参考URL:内閣府 今後の企業主導型保育事業の募集等について

申請や認可にかかる手続き方法、補助金・助成金の対象となる基準など、見直しによって規制がより厳しくなる可能性もあります。

これから企業主導型保育事業に参入しようと考えている企業は、市町村・自治体と連携してタイムリーな情報を得る取り組みが大切です。加えて、企業主導型保育のコンサルティングサービスを行っている企業・専門家に依頼することが、問題に対するリスクヘッジのキーポイントになることも押さえておくべきでしょう。

企業主導型保育・企業内保育についてもっと詳しく知りたい方は、こちらにお問い合わせください。

ONE ROOF ALLIANCE ワンルーフアライアンス

ONE ROOF ALLIANCE ワンルーフアライアンス
現在、都内22の認可保育園と認定こども園を運営する「社会福祉法人東京児童協会」と、企業主導型保育園や学童保育の運営、海外への保育事業を展開する「株式会社ONE ROOF」が主体となり、新しい子育て社会を実現していくネットワークです。