企業主導型保育施設は閉鎖が多い?!原因と対策を解説

企業が従業員向けに設置する企業主導型保育所は手厚い助成金、認可保育所よりもゆるい設置条件のため制度が運用された平成28年以降増えてきました。

しかし、企業主導型保育所はせっかく開園してもほどなくして閉鎖してしまうことが珍しくありません。

その理由と閉鎖せず安定した経営をするための対策をご紹介します。

企業主導型保育のこれまでの実情

企業主導型保育とは企業が主に従業員向けに設置する保育所です。従業員の子どもだけでなく、地域の子どもも預かることができます。平成28年度に内閣府が働き方改革と待機児童の解消のため、助成制度を設けたことから増えてきました。自治体の審査と認可が必要ありません。保育所を設置することで従業員が出産後も働きやすくなるうえ、企業イメージもアップします。そしてなによりも潤沢な補助金が支給されることが魅力です。しかし、実際には様々な理由で開設が見送りや中止、事業からの撤退や譲渡、そして休園や閉鎖が相次いでいます。スムーズな運営を行えている企業主導型保育施設はほんの一握りです。

閉鎖に陥る背景

悩む女性

なぜ企業型保育施設の運営は行き詰まってしまうことが多いのかについてご紹介します。

助成金が下りない

政府が企業型保育施設を開設運営するための助成金制度を実施しています。しかし、助成金は申請したらすぐに交付されるものではありません。申請してから決済までに数カ月かかります。

そのうえ、申請書類は複雑なうえ毎年内容が変わるので1回で通ることは難しいです。なんらかの不足や不備を理由に差し戻されることが多く、そのやり取りで時間のロスが発生します。

さらに、決済されても交付までさらに数カ月かってしまうのです。申請書類の煩雑さに音を上げてしまったり助成金が交付されるまで保育所を維持する体力が企業になかったりすると設置の見送りや閉鎖となります。

保育士不足

保育士は全国的に不足しています。そのうえ、企業主導型保育施設は畑違いの企業が運営しているので経営方針や保育計画などに不安を覚える保育士が多く、伝手のない企業主導型保育園は他の保育園よりも保育士の確保が困難です。さらに、企業主導型保育施設は保育スタッフの半分以上が保育士であれば基準をクリアしてしまうので「保育経験が全くない人と一緒に子どもの命を守るのは怖い」と感じ、敬遠されます。待遇もそれほど良くないことが多く、引く手あまたの保育士はあえて企業型保育施設を選ぶことは少ないのです。

制度の不備

企業主導型保育施設に関する審査は書類審査を重視しています。自治体による事前審査もありません。そのため、書類さえ通ってしまえば助成金が下りてしまい、施設運営の見通しの甘い業者にも審査が通ってしまうことも多く、許可が下りたものの結局経営が軌道に乗らずに閉鎖してしまうというケースが多いです。また、書類さえ通ればいいという点を悪用して助成金だけ受け取り実際には保育施設を運営しないという詐欺事件も何件かありました。

定員割れ

保育施設設置前の事前調査不足や見通しの甘さから定員割れとなり、採算が取れずに閉鎖してしまうことも多いです。企業主導型保育施設の約半数が定員割れをしています。

閉鎖を防ぐ方法

企業主導型保育施設を健全に運営し、閉鎖を防ぐ方法について紹介をします。助成金を目当てにし過ぎず、保育という事業に真摯に向き合うことが成功のポイントです。

計画段階で精査する

待機児童が問題になっているからと言って保育施設を作れば無条件で儲かるというほど保育の現場は甘くありません。保育施設の設置や目的を確認し、利用企業者数や従業員のニーズを把握しましょう。

自治体と地域枠を調整することも大切です。需要が少なかったり待機児童がゼロだったりする地域に新たに企業主導型保育施設を設置し、助成金を得ることは制度上可能ですが、子どもの奪い合いとなり、経営に支障が出るでしょう。

企業同士協力する

企業主導型保育施設の設置方式として共同運営や共同利用を検討するのも1つの選択肢です。

特に資金面で厳しかったり利用希望従業員が少なかったりする中小企業にとって個々で保育施設を設置し運営するよりもコストがかかりにくく経営も安定します。

ノウハウのあるところに相談する

保育分野の経験がない企業が新たに保育事業に手を出すのはとても大変なことです。ノウハウがないのであれば自主運営にこだわらず、外部委託方式を取ることも検討してみましょう。助成金額が減る可能性があるうえ、委託費用を払う必要がありますが、ノウハウやツテがないと難しい人材確保や申請の手続きまで委託することができます。ただし、再委託はできないので委託先については慎重に検討してください。

平成31年度以降は制度の見直しも

政府は平成31年度以降、「保育の質確保」と「事業の継続性」を向上するために制度を見直す方針を出しました。国が毎年運営者の外部評価を行うことと、施設を新設したり委託を受けたりする事業者に5年以上の実績を義務付けること、財務能力を審査することなどが主な見直し点です。これにより、ずさんな計画での安易な参入がしにくくなります。

まとめ

滑り台

企業主導型保育施設は制度が始まった平成28年度から広まりました。しかし、実際には経営がうまくいかず、閉鎖が相次いでいます。閉鎖の背景には保育事業のノウハウのない業者による甘い見通しでの参入や事前調査の不備、制度の甘さなどがあります。待機児童は社会問題ではありますが、だからといって保育施設を作ればいいというものではありません。書類を完璧に整えるだけでなく、利用者や地域のニーズや需要をしっかりととらえ、万全な計画で臨めば閉鎖を防ぐことができます。

ONE ROOF ALLIANCE ワンルーフアライアンス

ONE ROOF ALLIANCE ワンルーフアライアンス
現在、都内22の認可保育園と認定こども園を運営する「社会福祉法人東京児童協会」と、企業主導型保育園や学童保育の運営、海外への保育事業を展開する「株式会社ONE ROOF」が主体となり、新しい子育て社会を実現していくネットワークです。