企業主導型保育の定員割れは事業の存続に関わる?!原因と対策を解説

2016年から始まった、企業主導型保育の制度ですが、早くも定員割れ等の問題が指摘されています。

今回は、このような実情を踏まえ、原因と問題点と解決策を紹介します。これから、この制度を利用し、企業主導型保育所を設立したいと検討されている方は、是非最後までお読みください。

保育園の待機児童問題は、将来少子化を向かえる日本にとって、早期に改善すべき大きな課題の一つです。しかし、一方では定員割れにより閉鎖に追い込まれている保育園もあるのです。その一つが「企業主導型保育所」と呼ばれる民間法人が経営する保育施設です。施設の中には、何の告知もなく、突然閉園してしまうところも見られ、今後の制度維持が不安視されています。

定員割れの現状

2019年4月に行われた、会計検査院のサンプル調査の結果では、全体の約4割の施設が定員の児童数を満たせず、充足率が5割未満という実態であることが分かりました。

上述したように、2016年度の制度開始以降、経営の悪化などによって、休園する問題が各地で起きており、定員割れは今後も続く可能性があると考えられています。

国(内閣府)から助成金を貰い、安定した経営が期待されていた「企業主導型保育所」は、どうして定員割れを起こし、閉鎖されていくのでしょうか。

助成の現状

この認可外の「企業主導型保育所の制度」が開始された2016年から2018年度には約3800億円の予算が計上され、2597施設への助成が決まりました。

施設数が増加した理由としては、認可保育園では、0歳~1・2歳児の年齢ごとに配置する保育士の数に対し、企業主導型保育所は保育士の人数は半数で良いという、緩い運営基準にしたことが要因の一つです。

運営基準は緩くなったのに、受け取れる助成金は認可施設並みのため、企業からの申請が殺到したという訳です。

定員の充足率

会計検査院は2018年10月時点で、開設から1年以上経つ保育所のうち、173施設を抽出して充足率を調査しました。

月平均の充足率が1年以上にわたり50%を下回った施設は72施設(調査対象の41%)、そのうち充足率が20%に満たなかった施設は27施設(調査対象の15%)と、企業主導型保育所のキビシイ実態が浮き彫りとなりました。

休園や閉鎖が相次ぐ

2018年10月に東京都世田谷区にある2つの企業主導型保育所で「保育士一斉退職事件」が起きました。

この保育所を経営していた企業は、職員への給与の未払い、家賃の滞納があったと言います。そのうち1ヶ所は休園、もう1ヶ所は別の企業に引き継がれました。

内閣府によると、制度が始まってから認可が取り消しになったのは2施設、休止も3∼4施設程度と発表していますが、届け出をせずに休園している施設もあるとしています。

定員割れの原因

企業主導型保育所の制度が出来たら背景には、社会問題化している待機児童対策にあります。しかし、その待機児童問題は、共働きする世帯が増加している、都市部に多く見られる現象です。

多くの地方都市では待機児童問題は殆ど起きていません。そうなると、地方での企業主導型保育所の需要は殆どなくなってしまいます。仮に利用したとしても認可保育所の空き待ちとして利用している人が殆どです。

事前の社内調査不足

企業主導型保育所制度は参入障壁が低いこともあり、保育事業の経験がない企業の参入が進んでいます。そのため、助成金目当てで、待機児童が殆どいない地域に設置しようとする企業も少なくありません。

また、各自治体によって定められている保育所入園条件以外の子どもまで、入所見込みの人数にカウントし、申請をしていることも定員割れの原因の一つです。

待機児童のいないエリアでの新設

社会的に深刻な問題となっている少子化ですが、利用児童の数と既存の保育所の数、新規に参入する企業主導型保育所の数のミスマッチが起こっている地域があります。

保育所を必要としているのは、主に東京都心部に集中している傾向にあるため、地方型の保育事業を展開するには、限界があるのです。

ほかの保育機関の利用

内閣府の調査では、2017年度末現在の平均充足率は60.6%、年齢別では0∼2歳が72.2%、3歳児以上のクラスは22.3%でした。

内閣府の分析では、3歳児以上のクラスは幼稚園を利用しているケースが多いのではないか、としています。

定員割れは死活問題

赤ちゃん

助成金を当てにした経営管理がずさんで、当初の予定よりも定員が集まらず閉園に追い込まれる保育所も少なくありません。利用者数の水増しをして、助成金を不正に受給しているという事例も発生しています。

また、児童育成協会からの運営費助成金の支払いが遅れたことで、経営に行き詰まって撤退する企業も多いです。

適正な事業計画は必要

事業を始める前に、事業計画の作成は必須です。施設規模や土地、新築の有無によってもコストは大きく変動します。企業主導型保育所の場合は、最大で1/4の設備費用が助成されますので確認しておきましょう。

また、保育園に係る費用は、年間平均で2000万円以上と言われています。これは、人件費や設備費、水道光熱費を合算したものです。助成金を受けた場合は、50∼95%の補助が受けられます。

このように手厚い助成を受ける、企業主導型保育所ですが、助成金だけでは経営は成り立ちません。その証拠に、定員割れによる閉園も多く見られます。

定員割れを防ぐ方法

定員割れを起こす最大の原因は、立地地域の調査不足によるものです。保育所利用者のカウントは、自治体の利用要件を確認した上でのデータ収集と地域枠を把握して行うべきでしょう。

制度の見直しも検討

政府では、企業主導型保育所の実態を踏まえて、新設したり委託などを受けたりする保育業者に5年以上の実績を義務付け、サービスの向上を目指しています。

また、経団連も企業主導型保育所の実態については、問題があるとし、内閣府から事業に関する説明と、企業側からは事業の実態について質問を受け、業務の改善に前向きな姿勢を示しています。

経団連からは、保育の質の向上と認可保育所との連携を図るうえでも、行政との連携が重要であるという意見も出されました。また、地域内の事業所用の保育所の設置や、事業所内に施設をつくることも検討しているようです。

まとめ

椅子と園児

今回紹介した企業主導型保育所の制度は、待機児童対策として期待されていたものの、現状では、定員割れや助成金詐欺など様々な課題が露呈しています。

企業主導型保育所を経営しようとする企業は、安易に助成金に頼った事業展開をするのではなく、需要とのマッチングを考えた計画的な運営の改善が急務と言えるでしょう。

これらの課題を解決した少子化対策に有効な制度として、企業主導型保育所制度の維持と適切な運用が今後も求められます。

ONE ROOF ALLIANCE ワンルーフアライアンス

ONE ROOF ALLIANCE ワンルーフアライアンス
現在、都内22の認可保育園と認定こども園を運営する「社会福祉法人東京児童協会」と、企業主導型保育園や学童保育の運営、海外への保育事業を展開する「株式会社ONE ROOF」が主体となり、新しい子育て社会を実現していくネットワークです。