経営者や人事担当者を悩ませる課題の一つに、離職率が挙げられると思います。離職率が高くなってしまうと、自社に興味を持ってくれた人材に対して良くないイメージがついてしまったり、従業員を教育するコストも無駄になってしまいます。そこで今回は、離職率を下げたいと考えている方に向けて、主な離職の原因や離職率を下げるために有効な取り組みを、企業の取り組み事例とともにご紹介します。
目次
日本の離職率の現状
※2019年(令和元年)「雇用動向調査」(厚生労働省)、入職と離職の推移を基に加工して作成
令和元年に厚生労働省が発表した「雇用動向調査」の結果では離職率の割合は15.6%となっており、前年と比べて1.0ポイント上がっているという結果が出ました。男女別で比較してみると、男性が13.4%、女性が18.2%となり、女性のほうが離職率が高いことがわかります。
※2019年(令和元年)「雇用動向調査」(厚生労働省)、図3 産業別入職率・離職率を基に加工して作成
また、業種別の離職率を見ると、宿泊業・飲食サービス業が33.6%、生活関連サービス業・娯楽業が20.5%という高い数値を出しています。このように、離職率は性別や業種によって大きく変化しています。自社ではどのような従業員層の離職が多いのかをしっかりと把握していくことが、離職防止の対策や改善すべきポイントを見つけるための第一歩だといえるでしょう。
社員が辞めていく……離職の理由とは?
次に、従業員が会社を退職してしまう原因についてみていきましょう。
「雇用動向調査」によると、令和元年1年間の転職入職者が前職を辞めた理由として、男女それぞれで以下の結果が出ました。
【男性】※「その他の理由(出向等を含む)(27.4%)は除く
1位:「定年・契約期間の満了」(16.6%)
2位:「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」(11.2%)
3位:「職場の人間関係が好ましくなかった」(9.3%)
【女性】※「その他の理由(出向等を含む)」(26.6%)は除く
1位:「職場の人間関係が好ましくなかった」(14.8%)
2位:「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」(12.5%)
3位:「定年・契約期間の満了」(10.7%)
特徴的なのは、男女ともに「職場の人間関係が好ましくなかった」「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」という理由が上位にきている点です。ワークライフバランスが注目されている現代は、労働環境や人間関係を重視している人材が多いことがわかります。
離職率が高い企業の特徴
先ほどご紹介した前職を辞めた理由からわかる通り、離職率が高い企業は労働環境が良くない可能性があります。例えば長時間労働や福利厚生、長期休暇制度、社内教育制度、評価制度が整っていない、といった労働環境だと、従業員が企業に対して不信感を募らせてしまいます。
また、職場の人間関係も整えるべき対象です。職場は従業員にとって、1日の大半を過ごす場所。ハラスメントが頻繁に起こっていたり、社内の人間関係が悪かったりすると、従業員は大きなストレスを抱えてしまいます。
一度離職を考えさせてしまうと、その感情を完全にリセットするのは難しいことです。離職率を下げたいと考えている企業は、従業員がそういった思いを抱かないように社内制度や職場環境を見直す必要があります。
離職率を下げるために有効な取り組み
では、離職率を低下させるために、企業はどのような取り組みをしていけばいいのでしょうか?社内コミュニケーションの活性化や給与アップなど、さまざまなことが考えられると思いますが、企業側が着手しやすい対策として「福利厚生や教育制度の見直し」があります。
リクルート 就職みらい研究所が、2021年3月卒業の大学生を対象に行った「就職プロセス調査(2021年卒)」によると、民間企業への就職が確定している学生が就職先を確定する際に決め手となった項目において、「福利厚生(住宅手当等)や手当が充実している」が34.8%という全体で3番目に高い数値を出していました。福利厚生が充実しているかどうかは、求職者が企業を選ぶうえで重要な基準になっていることがわかります。離職率を下げるために何から始めればいいか悩んでいる方は、自社の労働環境や福利厚生、社内研修制度や適切な評価制度といった社内制度の見直しから着手することがおすすめです。
また、福利厚生は健康保険や厚生年金などの法律的に義務付けられている「法定福利厚生」と、住宅手当や育児休暇など企業が独自に採用できる「法定外福利厚生」の2種類があります。近年、女性が働きやすい環境を整えることなどを目的に法定外福利厚生を充実させる企業も多くなっています。以下に、具体的な企業の取り組み事例をご紹介します。
離職率を低下させた企業の取り組み事例
株式会社レオパレス21
アパート・マンションの建築や賃貸管理を行っているレオパレス21は、2014年にダイバーシティ推進室を設置して以降、テレワーク制度やリフレッシュ休暇などの社内環境整備を進めてきた企業です。このような取り組みを行った結果、一人当たりの時間外労働が27.8時間(2014年)から15.0時間(2018年)まで減少し、離職率も8.1%(2018年3月期)にまで下げています。
また、育児休業の特別延長措置や時間外労働の削減といったワークライフバランスへの高い取り組みが認められ、2017年には子育てサポート企業として高い水準の取り組みを行っている企業として厚労省から「プラチナくるみん認定」を受けています。
株式会社ローソン
コンビニでおなじみのローソンは、離職率が7~8%程度(2015年度~2019年度)という低い数値をキープしている企業です。同社はダイバーシティを経営戦略の一つに位置付けており、労使協議の場を設定、年1回の社員意識調査の実施といった、従業員全員が働きやすい環境作りに取り組んでいます。
その一環として女性活躍も推進しており、女性幹部育成研修を実施したり、ローソン本社に事業所内保育施設「ハッピーローソン保育園」を設置するなど、育児と仕事の両立支援も手厚く行っていることが特徴です。離職率が低い数値で推移しているのは、このような対策によるものだと言えるでしょう。
ヤマハ株式会社
ピアノなどの楽器製造や音楽教室で有名なヤマハは、グループ全体の離職率が8.2%(2019年度)という数値を出しています。厚生労働省が発表した2019年1月~12月のサービス業離職率の平均が18.8%なので、かなり低いことがわかると思います。
同社もダイバーシティに関する取り組みを行っており、その一環として女性が活躍できる職場環境の整備を推進しています。具体的には女性従業員の積極的な登用・能力開発機会の拡大、仕事と育児の両立支援制度の運用といった施策を行っており、その結果、産前産後休暇・育児休養取得率、育児休養後の復帰率がほぼ100%になっています。
まとめ
離職率を下げるためにはさまざまなことが考えられますが、福利厚生や教育制度の見直しは有効な手段のひとつです。制度の見直しを行う場合、自社がどんな現状なのかを調査するところから始めるので、時間とコストは多少かかってしまうかと思います。ですが、従業員に働きやすいと思ってもらえるように福利厚生や教育制度を充実させていくことで、離職率の低下と従業員のモチベーションアップにつなげることができます。
また、先ほどご紹介した離職率が低い企業について、仕事と育児の両立などの女性が働きやすい環境を整えていることも共通点として挙げられます。女性が活躍できる環境を整えることで、企業のイメージアップにつなげることもできます。離職率を下げるためにも、従業員全員が働きやすい環境とはどういうものか、他社の事例を参考にしながら制度を整えていきましょう。