2021年1月に総務省統計局が発表した「労働力調査」によると、2020年平均の就業者6676万人のうち女性は2968万人(全体の約44.4%)を占めていることがわかりました。2005年に行われた同調査では就業者6356万人のうち女性は2633万人(全体の約41.4%)という結果が出ており、女性が就業する割合は年々大きくなっていることがわかります。人材採用を行う企業としても、女性を採用する機会が多くなっているといえるでしょう。
そこで今回は、女性が職場を選ぶときにどのような点を重視しているのか、女性が働きやすい職場環境を整えるメリットを、企業の取り組み事例とともに解説します。
目次
”昔”と”今”の女性の働き方の違い
※「第1節 働き方の変化 図表58 年齢階級別女性の就業率の推移」(国土交通省)を基に加工して作成
女性のライフスタイルや働き方は、時代とともに変化しています。
1986年に男女雇用機会均等法が施行されると、共働き世帯の数が増え始めました。図表を見てみますと、2011年には25~29歳までの女性就業率が72.8%、30~34歳までの女性就業率は64.2%にまで上昇しています。大学を卒業して就職する女性が増えてきたこと、結婚せずに就業を長期的に継続する女性が増えてきたことなど様々なことが考えられますが、その中でも結婚・出産を経ても就業を続ける女性が増えていることも大きく関わっています。
※「『第1子出産前後の女性の継続就業率』及び出産・育児と女性の就業状況について」(内閣府男女共同参画局)を基に加工して作成
上の図表によると、2010~2014年には第1子出産前後の妻の就業経歴のなかで出産後も就業を継続している割合は38.3%にまで増えています。なかでも、育児休養制度を利用して就業を継続している女性の割合は28.3%になっており、2005~2009年調査時と比べて大きく上昇しています。
また、2015年から女性活躍推進法が施行され、結婚・出産を経た女性が働きやすい環境を整える動きが活発になっています。企業のイメージや業績をアップさせるためにも、出産後も働きたいと考えている優秀な女性人材を迎え入れる働きやすい環境を整えることが有効だといえるでしょう。
“今”を生きる女性にとっての「働きやすさ」とは?
① 人事評価に関する公正性・納得性の向上
② 本人の希望を踏まえた配属、配置転換
③ 業務遂行に伴う裁量権の拡大
④ 優秀な人材の抜擢・登用
⑤ 優秀な人材の正社員への登用
⑥ いわゆる正社員と限定正社員との間での相互転換の柔軟化
⑦ 能力・成果等に見合った昇進や賃金アップ
⑧ 能力開発機会の充実や従業員の自己啓発への支援
⑨ 労働時間の短縮や働き方の柔軟化
⑩ 採用時に職務内容を文書で明確化
⑪ 長時間労働対策やメンタルヘルス対策
⑫ 有給休暇の取得促進
⑬ 職場の人間関係やコミュニケーションの円滑化
⑭ 仕事と育児との両立支援
⑮ 仕事と介護との両立支援
⑯ 仕事と病気治療との両立支援
⑰ 育児・介護・病気治療等により離職された方への復職支援
⑱ 従業員間の不合理な待遇格差の解消(男女間、正規・非正規間等)
⑲ 経営戦略情報、部門・職場での目標の共有化、浸透促進
⑳ 副業・兼業の推進
※「令和元年版 労働経済の分析 ―人手不足の下での『働き方』をめぐる課題について―」(厚生労働省) 第2―(2)―2図 男女別・年齢階級別にみた働きやすさの向上のために重要な雇用管理を基に加工して作成
厚生労働省が発表したデータによると、15~34歳、35~44歳の女性のうち40%以上が働きやすさ向上のためには「仕事と育児の両立支援」が重要だと考えていることがわかりました。ワークライフバランスが整えやすい環境であることが、“今”を生きる女性にとって「働きやすい環境」のひとつだといえそうです。
そのような環境を整えるために企業ができることとして、結婚・出産を経ても安心して働ける制度、つまり育児休業制度や短時間勤務制度などの福利厚生を整えることが挙げられます。有給休暇をはじめとする休みがとりやすいかどうかも、女性が柔軟に働けるかどうかのポイントになるでしょう。
また、企業が従業員の子どもを預かる保育園を運営する「企業主導型保育」を始めることも有効です。女性が考える「働きやすい環境」を意識して社内制度を整備することで、女性採用と社員満足度の観点で良い影響を与えられます。
女性が働きやすい職場環境をつくるメリット
企業が「女性が働きやすい環境」を整えるメリットとして、以下のことが挙げられます。
優秀な人材の確保につながる
現在、少子高齢化により労働人口が減少しています。労働環境を整備し、優秀な人材を確保することは、企業にとって重要な課題のひとつです。女性が働きやすい職場をつくることは、在籍している社員が育児や介護を理由に退職してしまうのを防げるとともに、出産や育児の影響で働くことが難しかった優秀な人材を確保することにもつながります。
助成金を利用できる
女性が働きやすい職場環境をつくることで、「中小企業子育て支援助成金」という制度を利用できる場合もあります。本制度は一定の要件を備えた育児休業を実施する中小企業事業主(従業員数100人以下)が対象となる制度で、初めて育児休業取得者が出た場合に1人目70万円、2人目から5人目まで50万円を受給できます。
他にも、ベビーシッターの利用を希望する社員に対して、国が委託している協会のサービスを利用することで料金の一部もしくは全額を国が助成する事業もあります。国や自治体のサポートを活用して、企業・社員双方にとってよりよい職場環境をつくっていくことができます。
企業のイメージアップにつながる
2019年5月に女性活躍推進法が改正され、女性活躍に関する情報公表が義務付けられました。また、女性の活躍推進に関する状況等が優良な企業に送られる「えるぼし認定」に加えて、さらに高い基準を満たした企業に送られる「プラチナえるぼし認定」が創設されました。
「えるぼし認定」や「プラチナえるぼし認定」を取得すると、自社製品や広告などに掲載できるため、女性が活躍している企業だと広く認知してもらえます。求職活動をする女性に対しても制度が整っているとアピールできるので、イメージアップにつなげられるでしょう。
企業の取り組み事例から考える女性の働き方
ここからは、女性が働きやすい環境づくりを実践している企業をご紹介します。
株式会社ワコールホールディングス
婦人用インナーウェアなどの繊維品を製造しているワコールは、女性の活躍に関する取り組みの実施状況が優良な企業として「えるぼし認定」を取得している企業です。リモートワークを前提とした人事諸制度や女性のキャリア支援を推進するための制度の構築、運用を始めるなど、女性従業員が自分の強み・特性を活かしながら活躍できる環境を整えています。
また、育児休業やフレックスタイム勤務制度の導入など従業員の仕事と育児の両立支援も積極的に行っていることも特徴です。当事者だけでなく周囲でサポートする制度や風土の整備を行った結果、2020年3月時点で育児休業を取得した125人のうち、育児休業取得後に復帰した従業員の割合は98.4%。さらに、男性の育児休暇取得率も57.1%という高い数値を出しています。
東京ヤクルト販売株式会社
乳酸菌飲料やジュースの販売で知られるヤクルトも、女性活躍を推進している企業です。同社の取り組みとして有名なのが、ヤクルト保育所の運営です。企業内保育の先駆けともいえるヤクルト保育所は、もともとは小さな子どもをもつヤクルトレディが安心して働けるように1970年代から始めた取り組みでした。現在はその数を全国約1200か所まで展開しており、仕事と家庭を両立したい女性に対して手厚い支援を行っています。
また、育児短時間勤務制度整備や休暇の取りやすい環境づくりなど、仕事と家庭を両立できる職場環境の充実に向け施策の立案や実施も行っています。
イオン株式会社
ショッピングモールでおなじみのイオンは、女性活躍推進に関する取り組みが評価され、2016年に「えるぼし認定」を取得した企業です。
同社は2013年の株主総会で「日本一女性が働きやすく活躍できる会社。日本一女性が働きたい会社」を目指すことを宣言しており、実現に向けて「ダイバーシティ推進室」を誕生させました。その結果、1万人を超える女性管理職が活躍しています。
また、先ほどのヤクルトと同じく企業内保育所を展開しており、出産・育児休暇からのスムーズな復職、子育てをしながら働く従業員の活躍をサポートしている点も特徴です。これらの活動が評価され、2017年には「日経WOMAN」と「日経ウーマノミクス・プロジェクト」の共同調査「企業の女性活用度調査」を基に発表された「女性が活躍する会社BEST 100」で「女性活躍推進度1位」となっています。
まとめ
女性にとって「働きたい」と思ってもらえる会社づくり・組織づくりは、従業員全員の働きやすさにつなげることができます。
また、先ほどご紹介した企業の取り組み事例ですが、保育へのサポートが充実していることが共通点として挙げられます。結婚・出産などのライフイベントを経た女性に対してワークライフバランスを整えやすい環境を提供することが、企業の業績とイメージアップにつなげるための有効な手段だといえます。社内の研修制度や福利厚生を整備して、女性に選ばれる企業づくりを積極的に行っていきましょう。